下垂体疾患
下垂体疾患
下垂体とは、脳からぶら下がるように存在する小さな内分泌器官で、内分泌腺のホルモン分泌や尿量を調節する重要な役割を果たしています。前葉と後葉の2つの部分からなり、前葉は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、成長ホルモン(GH)、黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、プロラクチン(PRL)を、後葉はバソプレシン(抗利尿ホルモン;ADH)とオキシトシンを分泌します。
下垂体のホルモン分泌が増加する病気には先端巨人症(成長ホルモン分泌亢進症)、クッシング病(ACTH分泌亢進症)、TSH分泌亢進症、などがあります。低下する病気には下垂体前葉機能低下症や中枢性尿崩症、成長ホルモン分泌不全性低身長症などがあります。
先端巨大症は、下垂体からの成長ホルモン分泌が亢進することにより、鼻やあご、額、手足など体の末端が肥大する病気です。頭痛やいびき、多汗、高血圧や糖尿病などの症状を伴います。外見の変化はゆっくりと進むため、ご本人やご家族は気づかないこともあります。下垂体にできる良性の腫瘍が、成長ホルモンを過剰に分泌することによって発症すると考えられています。患者数は欧米の疫学調査で、人口10万人あたり4~24人という報告があり、比較的まれな病気です。
クッシング病は、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン分泌が亢進することにより、副腎皮質ホルモンの1つであるコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されることで発症します。満月様顔貌(満月のように丸くなった状態)や中心性肥満(お腹に脂肪が多くなりますが、手足は細い状態)、バッファローハンプ(首の後ろに脂肪がたまる状態)といった特徴的な身体兆候が現れます。コルチゾールが過剰になると、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症など生活習慣病と類似した合併症を引き起こします。クッシング病は、下垂体に副腎皮質刺激ホルモンを産生する腺腫ができ、過剰分泌を起こすことが原因と考えられています。
下垂体前葉ホルモンの一部、あるいはすべてが何らかの原因で十分に分泌できず、下垂体ホルモン自体ないし末梢ホルモンが欠乏した状態です。下垂体前葉ホルモン分泌が障害されると、結果的に副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、性ホルモンなどの分泌にも異常が生じたり、成長ホルモンやプロラクチンのように直接的な作用がなくなったりすることにより、様々な症状が現れます。
成人成長ホルモン分泌不全症とは、成人において成長ホルモンの分泌不全により引き起こされる状態です。疲れやすい、スタミナの低下、集中力低下、気力の低下、うつ状態、性欲の低下などにより生活の質(QOL)が低下していることがあります。さらに、体脂肪増加、筋肉・骨塩量減少、脂肪肝、血中脂質高値などの代謝障害を呈します。治療は成長ホルモンを自己注射により補充します。
抗利尿ホルモン(バソプレシン)は利尿を妨げる働きがあり、血液中に少なくなると尿量が増加します。尿量を調整するホルモンであり、とても重要な役割を担っています。のどが渇くような脱水状態では血液中の抗利尿ホルモンが増加し、体に水分を保持させます。中枢性尿崩症では抗利尿ホルモンが作用しないため、体に水分を保てず、尿量が増え、のどが渇き、大量の水分を摂取するようになります。治療は、デスモプレシンによる補充療法を行います。
成長ホルモンは、骨を伸ばすことで身長が伸びる働きをもつホルモンです。成長ホルモン分泌不全性低身長症は、この成長ホルモンを分泌する力が弱いことによって低身長となっている状態です。成長ホルモンを投与することにより身長を伸ばす治療を行います。
先天的な原因には、生まれつき下垂体の発達が悪いことなどが挙げられます。後天的な原因には下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫などの腫瘍性疾患があります。